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従の月 忘却

砂月 柚月、ねぇ柚月!起きて!起きてってばー!

柚月 なんだよ、今なん……朝五時!?お前さぁ…莫迦なの!?

砂月 まさか昨日のこと忘れたの!?莫迦は柚月でしょ!

柚月 覚えてるけど…逆にお前どこまで覚えてるの?

砂月 え…?えーっと、あれ?

樹月 柚月!いつまで寝ているんだ、この唐変木!時間に遅れるなとあれほど…!
   スケジュールは厳守しろ!早く着替えて支度しろ!

羅月 あ、あの…樹月さんっ!

樹月 なんだ羅月!これ以上の遅れは決して許さんぞ!

羅月 仮にも柚月さんは女性ですよ?それに寝所に立ち入るのは…その…ですね…
   控えた方がよろしいかとっ!今すぐ出てください!

樹月 柚月が女性!?そんな気を使う相手じゃない、それよりも時間がっ、おい!
   (だんだん遠くなる)羅月!離せ、離せっ!柚月を叩き起こさなければ

和月 えっと、柚月ごめんね。砂月、あとはよろしくね。じゃあ!

ー和月、走り去る

柚月 なんなんだ、騒がしい。おかげでバッチリ起きたっつーの!

砂月 じゃあ支度して、ほら。早く、早く!

柚月 わーった、分かったよ…そう急かすなって…

ー着替え終わり

柚月 (盛大な欠伸)ふわぁぁぁ(怠そうに)お早過ぎる御座いまーす…

樹月 お前が遅いんだ!今、何分だと思っているのだ、この風来坊!まったく…

和月 柚月流に言うと…「遅よう御座います」?
   なんだか面白い言い方だけど、頷けるなぁ。ふふっ

羅月 柚月さん、夜月さんは流石に…ショックで寝込んでしまって…。
   敦司さんが付いて、起きるのを待っていますので安心してください。

柚月 えー!?じゃあなんで俺だけ叩き起こした!?俺も寝てたいんだが?

砂月 は!?なに言ってるの…非常識にも程があるよ!自分が言ってることがどう

柚月(遮って)で?お前らどこまで覚えてんの?

砂月 は?どこって、夜月の命が危ないから最終の新幹線で来たんでしょ!?

柚月 で?

羅月 夜月さんにとって大切な…あれ?魔力が枯渇した訳ではないし…んっと?
   あれ、えーっと…なんで夜月さんは寝込んでいるんでしたっけ?んん?

和月 俺は東京の本部に夜月の殺人予告が届いて、柚月たちが見に行くって聞いて
   羅月の次に拠点が近いから様子を見てくれって。でも俺は終電なくなってて
   始発で来たんだ。到着する前に柚月たちが解決したんだよね?

柚月 どう解決した?予告文の内容は?

樹月 さっきから何なのだ!?予告文は暗号だろ、内容は…あの、えー、っと…
   あ、あ?…あー、青い?青い…

砂月 蒼い?…ブルーバード?

樹月 いや、英語ではなかった。全文、日本語だったと思うんだが…

和月 そう言うことじゃないような…

柚月 砂月、なんで俺をこんな早朝に叩き起こしたんだ?

砂月 何でって!砂月の家の敷地に…敷地は広くて色々な建物が…倉だっけ?

和月 夜月が倉で殺されそうになったの?
   俺は庭に集合って電車に乗ってる時に連絡もらったよ?庭はどうなったの?

羅月 庭?庭ってなにかありましたっけ…なんだろう、記憶が朧げで思い出せない
   なんとなく断片的にボヤッと分かるんですけれど…おかしいな

樹月 俺もだ、葉月さんが暗号解読したことは覚えているんだが…解読した暗号が
   どんな内容だったか…おかしい。俺は一度記憶したことは絶対忘れないのに
   どういうことだ?

砂月 夜なんか凄いことがあったんだよね、なんか空を見てたような?

柚月 殺人予告で呑気に空!?昨日の夜の空に流れ星でも見えたのか?
   「夜月が助かりますように」って願って、助かったのか?

樹月 願い事のことは満月ではないから分からないが、昨日この一帯で観測できた
   流れ星、もとい小天体は皆無だ。空なら月か雲でも見ていたんじゃないか?

砂月 んー。なんか違うんだよなぁ…なんで思い出せないんだろ、変だなぁ…。

羅月 なるほど、これは…思い出さなくて良い事なんでしょう。

樹月 どういう事だ!?全員が記憶喪失なんだぞ、これこそ敵の思う壺かも知れん
   思い出さなくて良いなんてことがあるか!

和月 …あ。そっか、なにがなんだか分からないけど…この話はもう終わり、かな
   あのね…えっと、樹月。「全員が記憶喪失」じゃないんだ、だから終わり。

樹月 分かるように話せ、話が全く見えん。俺は満月じゃないんだ。

砂月 全員が記憶喪失…全員じゃない?私、樹月、和月、羅月、夜月、敦司…っ!
   そういうこと?はぁー!?

樹月 夜月と敦司は記憶があるのか?

和月 んっと…たぶん、ないと思う。確認してないけど…

柚月 樹月は莫迦になったな、出会った頃はもっと聡かったのに、残念だ。

樹月 なっ!?お前はさっきから挑発ばかり、いい加減いったい何を知って…
   っ!そういうことか。…分かった。

羅月 きっと重大な「何か」は起こったのでしょう。けれど全て柚月さんが解決し
   我々の記憶に残らない方が柚月さん、延いては従の月のためなのでしょう。

和月 夜月が寝込んで起きられない程のことだから、俺たちが覚えていたら…。
   それこそ敵の思う壺ってことなんじゃないかな…?

砂月 それならそうと言ってくれればいいのに、もう。なんでそう意地悪するかな

柚月 は?甘えるな。記憶もないのに義務感だけで動く方が悪いに決まってる。
   (声を荒げ)これが誰かの精神操作で、状況が状況なら誰か死んでるだろ!

砂月 っ!……ごめんなさい、柚月の言う通りだ…。

樹月 俺も、先走った…朧げに記憶があるのを全て拾いもせず、先入観を全て
   正しいと思い込んだ。慢心だ…。

和月 お、俺も気付けなかった!神使のみんなに話を聞いていれば気付けたのに…

羅月 それを言えば、私が占術できない時点で様々な要因を疑うべきでした…。
   なんで疑問に思わなかったのか、自分が理解できません…。

柚月 はぁ…軽く説明ると砂月の「シナスタジア(共感覚)」が暴走して全員が
   砂月と同程度のパニックになってんだ、だから気付けなかったんだ。
   共感覚を先天的に持つ砂月は感受性が豊かってことだからな、仕方ない。
   暴走した理由は夜月が倒れた理由と同じだよ。

砂月 みんな、ごめんなさい

和月 謝ること、ないと思う。柚月が言った通り、砂月が砂月である証拠だよ。
   柚月の言葉…裏を返せば、砂月が感受性が豊かだから…「シナスタジア」が
   使えるんだ、その力はすごい力だから…謝ることじゃない…と思う…。

樹月 そうだな、従の月は誰が欠けてもいけない。この面子で従の月であることが
   個々を引き立たせる強さになる。特に俺は性質上、砂月に助けられることが
   多い、失えない力だ。

羅月 それにもし柚月さんがいなくても、きっと葉月さんが解決してくれます。
   我々は適材適所なんですよ、砂月さん。

砂月 みんな…ありがとう。私、もっと強くなるから!

柚月 あー。砂月が強くなったところで今回はどうにもならんかったな…

砂月 どういうこと?私の暴走も、夜月が倒れたのも、力の問題じゃないの?

柚月 夜月は…そうだな。夜月が寝込んでるうちに話すか…これを聞いたら夜月は
   また卒倒しかねん。お前らも落ち着いて聞け、取り敢えず解決したしな。

砂月 私、また暴走しない?

柚月 たぶん大丈夫だろ。今回の件は「魔」の月の仕業だ。かなり危ないことを
   やってくれたがな…俺に勝てる訳ないから抑えるのは簡単だったよ、でも。

樹月 でも…?なんだ?

柚月 羅月、さっき占術が出来ないって言ってたけど全てが、じゃないだろ?
   星に関わるものだけが出来ないんじゃないか?

羅月 …っ!そう、だ…。言われてみれば…確かにそうです…。卜術(ぼくじゅつ)
   などですと、普通に…出来ます…!

柚月 つまり「月」が墜とせないなら「星」を落としてしまえって魂胆だった。
   だから解決したとは言え、まだ星位置が歪んでる。まぁ星はそのうち戻る。
   問題なのは光と闇のバランスを崩して、混沌を起こそうとしたことだ。
   光と闇のバランスが崩壊したら、従の月どころか世界に死をもたらす。

樹月 それは…我々も混乱するだろうが、夜月が体験していたら寝込みもするな…
   惑星規模のことを「名の意思」ができるとは流石に驚くなんて話じゃないぞ

和月 あの…話の腰を折ってごめん、「魔」ってなに?

砂月 あー。話しておくべき…だよね?私の「シナスタジア」で伝えてもいい?

羅月 共有しておくべきかと思うますよ、今後も柚月さんだけに任せる訳には…
   いきませんし、我々の問題ですから。

砂月 和月、ちょっとおでこ出して。少しフラッとするけど、我慢してね?
   「シナスタジア(共感覚)」!

和月 っ!これって…つまり、その柚月が「魔月」なんだよね…?

樹月 どんな曲解をすればそうなるんだ、「魔」は月欠で誰も襲名していない。
   柚月は「鴉月」しかあり得ないだろ…まったく、縁起でもない。

柚月 俺は俺だ、鴉月は尊いお方の側にいて不在。俺は従の月じゃないんだよ。

羅月 皆さんそこは…それこそ暴いてはいけない。詮索無用、ですよ。
   我々で掟破りなんて言語道断ですから、もうやめましょう?

樹月 そうだな、悪かった。この話はやめよう。夜月にも話せる内容じゃないしな
   取り敢えず俺たちは東京に戻って報告するか

砂月 報告って…なにをどうやって?言えないことだらけじゃん…どうすんの?
   それに夜月は放置して帰るわけ?

和月 夜月は俺が看てるよ。俺は「魔」のこととか初めて知ったし、事件の時も
   いなかったからよく分からないから…。ただあと一人残って欲しい…かも。

羅月 なら私も残ります。家も一番近いですし、夜月さんには上手く言いますよ。

樹月 (樹月の頭に直接連絡)静かにっ!…東京の葉月さんから連絡だ!
   ……事件、相手は…異能か念力を使う?…はい。分かりました、戻ります!

砂月 なになに?事件ってなにごと!?

樹月 人間の力で引き起こされた悪事らしい。鉄橋に雷のような電流が突然走り、
   作業員が確認したところ、銃弾のような跡が発見されたが、銃弾にしては
   大きすぎると言うことだ。

柚月 んじゃ、ここで起きたことは綺麗さっぱり忘れて、仕事しますかねー!
   ちょうど戻る面子も砂月と樹月だし。改めて従の月、出撃するぜっ!


ー挨拶
柚月 柚月役 (名前)
砂月 砂月役 (名前)
樹月 樹月役 (名前)
羅月 羅月役 (名前)
和月 和月役 (名前)